歯内療法のセミナーを受講しました
勤務医の森川です。前回のブログより間があいてしまいましたが、今回は3月26日に静岡で開催された歯内療法のセミナーについてのお話をしたいと思います。
今回は大阪で開業されている福西一浩先生が歯内療法の中でも歯髄(神経)を保存する治療について主に講演をされました。福西先生は以前参加した5D japanというスタディーグループのファウンダーのお一人で、歯内療法だけではなく、歯周病やインプラント治療にも精通する歯科医師でいらっしゃいます。
歯内療法という言葉は聞きなれない言葉ですが、歯という硬組織に守られるように内部に存在する歯髄に対する治療のことです。歯髄を保存、温存する治療や残念ながら歯髄を残せる状態ではなく神経を取る処置(抜髄処置)や神経の処置を行った歯が感染が起きた場合に行う感染根管処置などのいわゆる根管治療の総称になります。根管治療に関して詳しく知りたい方はこちらへ
歯の最外層はエナメル質という非常に硬い組織からなりますが、虫歯(う蝕)になるとエナメル質は脱灰され虫歯に対する抵抗性に劣る象牙質が露出します。さらに虫歯が進むと歯髄にまで到達することになります。つまり虫歯が進行して象牙質、歯髄まで進行すると生体の中が剥き出しの状態になっているのと同じことになってしまいます。剥き出しの状態になると生体の外の細菌の侵入を許すことになります。歯内療法では生体の中と外を適切な位置で、適切な材料を用い、適切な方法で封鎖し細菌の侵入を防ぐことが目的であると福西先生は講演の初めにお話をされました。
これまで虫歯が深く神経まで到達している場合、強い痛みといった症状が認められなくても歯髄を取り除く処置が優先されていました。しかし、歯髄は痛みといった感覚を司るだけではなく、血液供給による生体の免疫機能や豊富な細胞の存在による周囲組織の再生といった体にとって非常に重要な役割を果たしている組織です。また歯髄を取り除くことにより、残された歯の量が少なくなり将来的な歯根破折のリスクを上げてしまいます。そして残念なことに日本の保険治療の現状では根管治療を無菌的に行うことが難しく、抜髄治療の成功率が欧米各国と比較し非常に低く、抜髄治療を受けた歯のその多くが感染を起こし、感染根管処置に移行すると言われています。
その為歯内療法に真剣に取り組んでる歯科医師の間では出来る限り歯髄を温存しようという考えが広まってきており、特にMTAセメントという生体の中と外を適切に封鎖する材料が登場したことがその大きな要因です。
歯髄を温存できるかどうかは適応があり、詳しい診査が必要となります。虫歯が深くても痛みを認めない方は可能ですが、痛みがあってもその程度によっては治療の適応になります。しかし、治療を行っても痛みが改善されない場合は再度炎症を起こしている部分の歯髄を切断・除去することや、歯髄を取る治療に移行することもあります。
また痛みだけではなく、虫歯の範囲も適応かどうか判断する項目の一つになります。歯内療法、根管治療において重要なことは細菌を除去・減少させることです。虫歯も細菌によって起きますので虫歯になっている範囲は確実に除去を行う必要があります。また虫歯を取り除いた後に口腔内の細菌が根管の中に侵入できないよう無菌的に処置を行う必要があります。例えば虫歯が深く歯肉の下まで進行していた場合は無菌的に処置をするために行うラバーダム防湿が困難になります。いくら歯髄を残そうとしても、口腔内から新たに細菌侵入を許すような環境では適切な治療を行うことはできません。
なので歯髄を保存する治療を行うためには私達治療を行う者と治療を受けて頂く皆様との間に信頼関係と、そして歯髄をできるだけ残したいという意思がなければ難しい治療なのかもしれません。
歯髄(神経)を取る、一言で言うと簡単に聞こえますが、歯髄をとるということは歯の寿命を縮めることになります。また歯髄が存在する根管系は非常に複雑です。歯髄を保存できる可能性がある場合は積極的に治療に取り入れたいと思います。
なお、歯髄を保存するために用いるMTAセメントは保険診療の適応ではないため自由診療のご案内になりますのでご了承をお願い致します。
日本国内で販売されている各種MTA
当院で最も使用頻度の高いものはPro Root MTAです。Pro Root MTAはオリジナルの製品(MTAの先発品)であり、最もエビデンス・長期経過が豊富です。その他の商品はPro Root MTAの特許が切れたことで発売された後発品(いわゆるジェネリック)のMTAです。MTAはだいたい1グラムあたり4000円ほどするかなり高価な材料です。