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Endoサミットに参加しました

勤務医の森川です。
今回は8/30にデンタルアーツアカデミーが主催する第7回Endoサミットに参加したことを報告したいと思います。

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講師の先生

今回のEndoサミットは
『歯髄除去から歯髄再生への根管治療のパラダイムシフト』というタイトルで、
アメリカのMahmoud Torabinejad(トラビネジャッド)先生(写真 右)、ギリシャのAntonis Chaniotis(チャニオティス)先生(写真 左)、そして日本からは月星光博先生(写真 中央)が講演されました。

歯内療法(根の治療)においてマイクロスコープ(治療用顕微鏡)、MTA(Mineral Trioxide Aggregate)、Ni-Tiファイル、歯科用CTが開発されそれを活用することで根管治療の効率を劇的に向上させ、治療成功率をあげたといっても過言ではありません。
演者の一人であるトラビネジャッド先生はMTAを開発されたエポックメーカーです。

MTAとは生体親和性に優れた(体にとって害が少ない)歯科用のセメントの一種です。現在MTAの適応範囲は、
・間接覆髄
・直接覆髄
・根管充填
・歯根端切除術における逆根管充填
・穿孔部の封鎖
と多岐に渡り、MTAにより歯髄(歯の神経)を残せる、また歯を残せるという機会が増えました。
このように我々に数々の恩恵を与えてくれるMTAですが、驚くことにMTAは工業用セメントの材料を精製、改良し作られています。工業用セメントを歯科に応用するという発想をどこから得たのか以前から伺う機会があればと思っておりましたが今回そのお話を聞くことができました。

根管治療では通常、歯冠側(歯の咬む溝があるところ)から器具や薬剤を使って治療を行っていきます。
しかし通常の根管治療では症状が改善されず器具が到達できない根尖孔(歯根の先端にあいている穴)の外に感染源の存在が疑われる場合は外科的な治療へ移行していきます。
顎の骨の中を通る太い神経との位置関係に問題が無いと判断した場合や奥歯でも手術で用いる器具が到達できる部位では一般的に『歯根端切除術』という方法がとられます。

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歯根端切除術のイラスト

歯根端切除術とは歯根の先端約3㎜を切除する手術方法で、根尖孔の外にある感染源や側枝と呼ばれる歯根の先端に多くみられる根管が枝分かれした細い道に存在する感染源を直接除去することを目的とします。
根管内は予め根管充填材で密閉されているとはいえ、切除された根管の先は大きな穴になってしまいます。
現在一般的に用いられる根管充填材はガッタパーチャと呼ばれるゴムであり、ガッタパーチャで根管内を緊密に封鎖することは困難です。特に大きな穴があいている場合はそこからまた細菌が侵入するリスクも高くなります。
そのため歯根端切除術では歯根の先端を切除(カット)するとともに、新たなる細菌侵入を予防する目的で逆根管充填といって根の先の方からも封鎖していきます。封鎖する材料で最も優れている材料がMTAです。

この逆根管充填にはアマルガムという金属や様々な種類のセメントをMTA開発以前では主に使用していました(日本の保険診療ではMTAを逆根管充填材として使用することは認められていないため現在でも使用しているところもあります)。
しかし、どの材料も出血・血液・体液が存在する湿潤な状態の術野で確実に封鎖ができるかというと疑問が残るものばかりです。またアマルガムという金属はアレルギーの問題もある為ヨーロッパでは使用が禁止されている材料でもあります。

そこでトラビネジャッド先生は建築現場で働いていた父親が水漏れの補修にポートランドセメントという工業用セメントを使っていたことに着眼し、逆根管充填材へ応用ができないか研究を始めたそうです。
ポートランドセメントは工業用のセメントですので、そのまま人間の体に使用することはできません。人体に悪影響を及ぼす成分は除去し、封鎖性や細胞レベルの実験や動物実験を行い生体に為害性(害を及ぼすこと)がないことを確認し、ついに1998年にアメリカで販売が開始されました。

MTAは元々、歯根端切除術における逆根管充填材として開発されましたが、その優れた封鎖性や生体親和性から穿孔部(根管、或いは根管が分岐するところに偶発的に開いた穴)の封鎖、そして硬組織を誘導することからアペキシフィケーションやアペキソゲネシスへ応用されています。

このように非常に優れた材料であるMTAですが、当然デメリットもあります。効果はあくまで感染(≒虫歯)がない状態で得られます。
先発のMTA(トラビネジャッド先生の開発したMTA)の特許が切れ、各社が後発のMTA(MTAのジェネリック)を発売しているとはいえ高価な材料であること、また治療時の操作性が難しいこと、そして硬化時間が長いこと(トラビネジャッド先生の開発したMTAは約3時間45分)が挙げられます。
現在トラビネジャッド先生はデメリットの一つである硬化時間を短くするため早く硬化するMTAを開発しています。

MTAだけではなく多くの新しい器具や材料が日々開発されています。そしてどの器具・材料においても利点だけではなく必ず欠点も存在します。使用する場合にはどちらも理解した上で適切な材料、方法を選択して治療を行うように心掛けていきたいと思います。

いまだ日本は予防という概念が欧米各国と比較しまだまだ浸透がしていないと感じます。何か症状があってから来院するという方はやはり進行していることが多く、治療内容が複雑になることや治療部位が増えてしまう傾向があります。
そのため歯髄(歯の神経)を取らざるを得ない状況もあります。また患者様だけではなく歯科治療に携わる者も歯髄を残すこと、歯を残すことの意義をもっと考え、残す努力をするべきであると考え直した1日でもありました。

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