歯周病のセミナー(JIPI)を受講しました
勤務医の森川です。今回は2月27、28日に参加したJIPI(Japan institute of periodontology and periodontology)セミナーについてのお話をしたいと思います。
前回11月に受講した時はインプラント治療における外科的な内容について学んできましたが、今回はインプラント補綴(ほてつ)がテーマでした。(11月の内容を知りたい方はこちらへ)
インプラント補綴とはインプラント体(フィクスチャー)が骨と結合した後、咬む、話すといった機能や見た目といった審美的な要素を回復するために装着する被せ物(上部構造)のことです。(インプラントの構成については図1を御参照下さい。)
図1
インプラントはもともと生えていた歯(天然歯)とは勿論のこと構造は全く異なりますが、天然歯に近い機能と見た目に回復されることが望まれます。
従ってインプラントと天然歯とは何が同じで何が違うのかをまず把握しておく必要があると思います。
講師の牧草先生は『天然歯に似ているところは模倣する。違うところは謙虚に扱う。』ことが大事であるとお話されていました。
ではインプラントと天然歯の大きな違いとは何なのでしょうか?それは周囲に存在する組織の違いにあります。
天然歯の周りには歯周組織と呼ばれる歯を支える組織が存在します。それはセメント質、歯槽骨(しそうこつ=歯を支えている骨)、歯肉(歯茎)、歯根膜という4つの組織(図2)です。
図2
ところが抜歯することにより歯の一部であるセメント質と歯と歯槽骨との間に存在する歯根膜は失われてしまいます。
インプラントは人工物なので歯槽骨の中にインプラントを入れてもセメント質も歯根膜も再生や回復はしません。
歯根膜にはいくつかの機能があります。歯根膜は歯と歯槽骨の間約0.15-0.38㎜の間に存在しシャーピー線維と呼ばれる結合組織から構成されます。
その線維はセメント質と歯槽骨の一部に入り込み歯をつなぎとめてくれる役割を果たしています。
例えば歯周病に罹患し、歯根膜に炎症が波及し喪失すると歯をつなぎとめる機能が失われるため歯は動揺してきます。
また歯根膜は歯を咬むことによって生じる圧力を受けとめてくれる機能があります。
入れ歯になった方が食事をしても咬みごたえを感じないのは歯を失うことにより歯根膜が感知する咬むという感覚が低下したためです。
また強く咬みすぎた際に痛いと感じるのは咬む力がオーバーにかかっていることを歯根膜が感知してアラームを出しているからです。
歯根膜には多くの血管が、血管の中には体の防御システムである免疫反応を担当する成分が多く流れています。
したがって抜歯することにより歯根膜から供給されていた血流が途絶えることになり、天然歯があった時と比べ細菌に対する防御能力が低下することになります。
この炎症に対する抵抗性の低さがインプラント治療を行う際に配慮が必要になってくる大きな理由となります。
インプラントが虫歯になることはありませんが、歯周病菌に感染しインプラント周囲炎という病態を引き起こす原因となります。(インプラント周囲炎とは歯周病菌に感染しインプラントを支える骨の吸収が起こることを言います。)
特に歯周病によって抜歯に至ったような場合では歯周病以外の原因で抜歯した場合よりもインプラント周囲炎になるリスクが高いという報告もあります。
インプラントは天然歯と比較し細菌に対する抵抗力が低いため、まず第一に清掃しやすいような設計の被せ物を入れることと、インプラント周囲の炎症をコントロールすることが大事になります。(インプラント周囲の清掃性に配慮したインプラント治療については前回のブログに詳しい内容が記載されています。)
そのコントロールとは日々の歯磨きを頑張って頂くこと、そして定期的にメインテナンスに来院して頂くことになります。
痛みや腫れといった症状や咬めないといった悩みが治療を受けたことによって改善されることは皆様にとっても私たちにとっても大変嬉しいことです。しかしそれが決してゴールではありません。
健康な状態を1日でも長く保って頂くためにも長いお付き合いのスタートでもあります。自身では気づかない変化がないか調べる、セルフケアを行う際のアドバイスをする、それでも手の届かないところのケアを行うメインテナンスが不可欠です。
現状では何か症状がなければ足が向かない歯科医院という存在ですが、歯を使わない日は1日たりともありません。
毎日使う物のメインテナンスを疎かにすることは寿命を縮めるのと等しい行為だと思います。痛い、怖い…などネガティブなイメージが付きまとう歯科医院ですが、何かあったら行く所ではなく何もなくとも行く所になれたらと思います。