5-D japan ファンダメンタルコース エンド・修復 第5回
勤務医の森川です。
今回は1月24、25日に行われた5-D japan ファンダメンタルコース エンド(根管治療)・修復治療(≒審美歯科治療)の第5回についての内容になります。
昨年12月に最終回を迎えたペリオ・インプラントコースに続きエンド・修復コースも今回が最終回となりました。
今回は近年新しく開発されたレシプロックシステムを用いた根管治療や前歯における審美的な修復について講義、実習を受けてきました。
さらに5-D japanのファウンダーの一人で大阪で開業されている福西一浩先生の大学時代の同期で現在、大阪大学理工学教室の教授を務めておられる今里 聡先生から『接着』についての講義を受けることができました。
『接着』という言葉は日常生活においても馴染みのある言葉です。例えば何か物が取れたり、壊れたりした時に接着材で修理をしたことがある方、プラモデルを組み立てる時に使ったことがある方も多くいらっしゃるかと思います。
歯科治療においてこの『接着』は無くてはならないもので、『接着』を利用しない日はないという位浸透しています。また接着の技術が飛躍的に進歩した現在では、歯科治療の概念すらも変えるようになっています。今回はこの『接着』についてお話させて頂きたいと思います。
歯科治療における接着ですが、虫歯を削った後に直接プラスチック(コンポジットレジン、以下レジン)を詰める治療や、被せ物・詰め物を装着する際に利用することが多いです。
皆さんは歯とプラスチックであるレジンがなぜ接着するのか考えたことはありますでしょうか?
本来、歯に直接レジンを置いても付くことはありませんが、歯に薬剤を使用し前もって処理することによって歯とレジンが接着することが可能になります。
虫歯を削った後の歯で穴があいたところは、非常に硬く殆ど水分を含まないエナメル質(エナメル質の水分は約2%)と、エナメル質より軟らかく、また水分を多く含む象牙質(象牙質の水分は約20%)から構成されます。その削った穴にレジンを詰めていきますがレジンは水分があると接着してくれません。
削ったところの深い部分は殆どは水分を多く含む象牙質で構成されるため、レジンと水分を含む象牙質との接着が十分得られなかった時代は詰めたレジンが外れる、或いはレジンと歯との隙間から漏洩が起き虫歯がまたできるということが頻繁に起きたため、虫歯になったところは金属の詰め物(インレー、アマルガム)や被せ物を入れるという方法が多くとられてきました。
しかし象牙質とレジンとをしっかり接着させるための研究・開発が重ねられ、現在では象牙質とレジンの接着性が改善され、虫歯を必ずしも金属の詰め物や被せ物にしなくてもすむようになりました。
金属の詰め物を型取りをして入れる為には虫歯になっていないところを便宜的に削る必要があります。なぜなら、歯の削ったところに段差やひっかかりがあると出来上がった詰め物を入れることができないので、ひっかかりのないような形態にする必要があります。そのため虫歯ではないところもひっかかる場合は便宜的に削らざるを得なくなるのです。
しかし象牙質とレジンの接着性が向上した現在において
適応の範囲内であれば奥歯、前歯に限らず虫歯をとった後にレジンで直接詰めることが可能になりました。そして2002年にMinimal Intervention(MI:ミニマルインターベーション)の概念が国際的に提唱されました。MIとは直訳すると『最小限の侵襲』という意味であり、初期の虫歯の場合はすぐに削らず再石灰化を促すことや歯を削ることを最小限に抑えることを推奨しています。例えば型取りをして詰め物を入れる治療と異なり、削った部位に直接レジンを詰められるので、虫歯のところだけを削り健康な歯質を不必要に削ることを控えることができるようになりました。
講義の中にひとつ興味深く、そして反省すべきスライドがありました。ある日本の大学で行われた実験ですが、大学で接着について主に研究している歯科医師、歯科学生、そして開業している歯科医師の3つのグループに分け接着の仕方に違いがあるか比較したところ、驚くべきことに学生よりも開業している歯科医師の方が接着を確実にできていないということが分かったそうです。この結果は使用方法を厳守しなかったために起こったと考察されていました。
接着に限らず、新しく開発された様々な歯科材料が日々商品として出てきます。また何と何を接着させたいかによって処理の方法が異なってきます。例えば歯とレジンなのか、歯と金属なのか、歯とセラミックなのかによってそれにあわせた接着、処理を変えていく必要があります。より簡便で性能の優れるものを使いたい気持ちになりますが、その材料の特徴を理解し、そして推奨される使用方法を厳守しなければ性能が十分発揮されないことになります。治療に関しても同様のことが言えると思います。
学生時代に習った知識だけでは臨床において絶対に対応できないと言っても過言ではないと思います。歯科医師になってから改めて歯科治療を勉強するスタートだと思います。日々アップデートされる治療や歯科材料、器具への関心、学ぶ姿勢を持つこと、そして学んだことを実践することをこれからも続けて頑張っていこうと思います。
最後に修了式で修了証書を頂きました。ファウンダー、インストラクターの先生方から教えて頂いた事を糧にして、もっとスキルアップしていきたいと思います。